平成21年度 厚生労働省社会福祉推進費補助金事業による研究報告書 介護福祉士の専門性の質的評価と活用に関する研究事業 報告書(概略版)平成22年3月 研究の背景・研究の目的

1.研究の背景

急速な高齢化がすすんでいるわが国において、介護サービスを必要とする人々の割合は年々増加しつつある。その中で、介護領域に対する社会のニーズは複雑、多様化し、介護サービスの質の向上や改善についての対応が求められている。このような動向をふまえ、介護専門職にはますます高い知識や技術が求められており、介護サービスの質の確保や評価方法が課題となっている。

高田1)は、「質」には大きく2通りの意味合いがあり、1つは他のものと区別する特色があり、本質という側面を有していること、もう1つは内容の良し悪し、価値であるとし、看護ケアの質を問う場合にはこの2通りの意味を示していると述べている。具体的には前者の意味は「ケアリング」に収斂され、後者の内容の良し悪しや価値という意味での「質」は、測定や評価という文脈の中で探究されてきた経緯について述べているが、本研究における「質」の意味は後者に相当するものである。

ケアの質がどのように・どのような評価次元で測定されているかについては、アメリカの医療経済学者Donabedianが1969年に提唱した「質」の最も包括的アプローチとされているQA(Quality Assurance 質の保証)システムを枠組みとして検討されることが多い2)3)4)。すなわち、構造(施設の外形的基準に含まれる内容等)、過程(実際に行ったケアの提供過程、利用者と援助者の相互関係の中での直接的なケア行為等)、結果(ケアの結果・効果、ケアの提供による満足度等)の3つの枠組みである。この3つのうち、社会福祉及び看護や医療の領域では、構造中心の評価から結果評価を重視する方向へと移行してきている5)

介護領域においても、これまでは設備や人員等定められた基準にそった監査を行う等の構造中心の評価であったが、介護保険法施行後、介護サービスへの満足度調査等、結果評価が行われるようになった。しかし、結果評価に関連する満足度調査には問題も多く指摘されている。須加6)は、第1に満足度は何を測定するのかという評価尺度のあいまい性、第2として満足度と期待との関係における期待すべき基準のあいまい性、第3に満足度は成果と相関しないこと、第4に自覚のないニーズへの支援は評価できないこと、そして、第5として利用者の思いに沿うような多様な評価を表さないことの5つの問題をあげている。さらに、介護の対象者は、高齢者が多く、不可逆性の障害や疾患をもっていたり、認知症の進行により重度化する傾向にあるため、ケアの結果評価の見極めは困難との指摘がある7)

永田8)は、ケアの質については統一的な概念で使用されておらず、ケアの質を定義することはきわめて困難であると述べているものの、利用者が重点をおく介護サービスの質については、施設の外形的なものよりも、実際に受ける個別的かつ直接的な介護、すなわちケアの提供過程であるとしている。また、須加9)も、訪問介護の質に影響を及ぼす要素として、ケアの提供過程としての援助関係と成果が重要であると述べている。

一方、ケアの質をどうみるかは、評価主体が誰であるかによっても異なる。つまり、介護領域では、利用者、管理者、介護専門職等、質の評価に関わる人は多数いる。また、Donabedianによる3つの枠組みのうち評価次元をどこに置くのか、ケアの質についての評価主体者を誰に置くのかなど、調査設計によって評価方法と評価内容が異なるということは、ケアの質の評価尺度開発の困難さを示唆している。

以上をふまえ本研究では、ケアの提供過程(以下、介護実践過程とする。)に焦点をあて、研究をすすめる。次に、介護実践過程の枠組みを検討する視点として、介護の専門性を手がかりに進めていくこととする。

介護の専門性について中澤10)は、介護福祉士養成教育との関連から「求められる介護福祉士像」注1)と福祉専門職の専門性の構造に言及し、その中で小田らの文献11)に基づき、福祉専門職の行うあらゆる活動は、価値(倫理)、専門的知識、専門的技術の3層構造により成り立つと述べている。また、中嶌12)は、福祉従事者の専門性の捉え方として、内的条件に洞察力、価値観、使命感、愛情といった要素を上位項目に挙げ、外的条件として知識、技術、資格の充実、実践力を構成要素としてあげている。さらに、黒澤13)も、バートレットによるソーシャルワーク実践の理論を援用し、専門性の構成要素として価値・知識・技術をあげ、さらに価値・知識・技術の関連については、価値・知識が方法よりも優位にあるとしても、それは優位の問題というよりは、「価値・知識は方法(実践過程)によって統合される」とし、介護の専門性としての方法の位置づけを示している。

以上から、介護福祉士が日常実践している介護実践過程にこそ、価値(倫理)・知識・技術の3つの視点が統合された専門性が表れるものと考えた。すなわち、(1)評価主体によってケアの評価基準は異なる、(2)ケアの質は多様である、(3)介護の専門性は介護の質のひとつの見かた(視点)である、という3点を前提に、介護の質の評価指標の開発を試みるものである。評価指標開発の出発点として、本研究は、評価主体を介護福祉士とし、利用者と支援者(介護福祉士)の相互関係の中での直接的なケア行為(介護実践過程)に焦点をあて、「介護福祉士の介護実践過程の評価項目」についての検討を行う。

具体的には、介護福祉士が実際に日常的に行っている介護実践過程について、価値(倫理)・知識・技術を意図しながらグループインタビューし、結果を詳細に分析することで介護実践過程の評価項目を作成することを課題とする。

注1)「介護福祉士のあり方及びその養成プロセスの見直し等に関する検討会報告書」(2006年7月)では、介護福祉士における人材養成における目標が段階的に示された。この中では、「求められる介護福祉士像」(12項目)の実現が最終的な人材養成目標であるとの基本姿勢が示されるとともに、資格取得時の達成基準も「介護福祉士養成の到達目標」(11項目)として提示された。

2.研究の目的

介護保険制度実施から10年が経過し、介護専門職の中心である介護福祉士への期待は大きい。利用者は質の高い介護を求めており、介護保険施設等においても介護福祉士の積極的な活用が求められている。そのような社会的要請があるにもかかわらず、介護福祉士の専門性や質について評価する指標は見当たらない。

本研究では、介護福祉士の行う介護の質に関する評価指標として、「介護福祉士の介護実践過程の評価項目」を開発することで、介護の専門性及び介護の質の向上について提案することを目的とした。

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