平成20年度 厚生労働省社会福祉推進事業による研究報告書。介護保険施設における介護福祉士の配置の評価に関する研究事業 報告書(概略版)平成21年3月 第1章 研究の概要

1.研究の目的

 社会福祉士及び介護福祉士法等の一部を改正する法律により、介護福祉士の養成カリキュラムが改正され、今後、一層質の高い介護福祉士を養成していくことになり、介護保険施設等においても介護福祉士をより積極的に活用することが期待される。また、平成16年7月に社会保障審議会介護保険部会から出された「介護保険制度の見直しに関する意見」においても「介護職員については、まず、資格要件の観点からは、将来的には、任用資格は「介護福祉士」を基本とすべきであり(略)」とされていることからも介護福祉士の一層の活用が望まれる。

 しかしながら、これまで介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)により、サービスの内容・質にどのような差があるのかどうかについて、客観的な調査研究が行われてきておらず、施設側にとっては、介護福祉士を雇用する(あるいは資格取得を支援する)インセンティブが低い現状にある。

 このため、本研究では、介護保険施設における介護福祉士の配置の多寡により、サービスの内容・質に差がみられるか、また、介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)について、施設長からみた評価や、それぞれの職種による自己評価結果に違いがあるのかを分析し、介護福祉士の雇用促進及び待遇改善につなげるための基礎資料を作成することを目的として実施した。

2.研究の概要

(1)実施体制

 本研究の実施に際し、研究の方法・内容や、調査実施・分析等について検討するための委員会を設置した。委員会は、学識経験者により構成し、計6回開催した。

<検討委員会委員> ◎委員長

黒澤 貞夫 浦和大学客員教授・日本生活支援学会会長
井部 俊子 聖路加看護大学学長
田中 涼子 高齢者福祉総合施設「ももやま」副園長
鈴木 聖子 岩手県立大学
小櫃 芳江 聖徳大学短期大学部
吉賀 成子 東京家政学院大学
関根 良子 NPO法人福生会訪問看護ステーション
柊崎 京子 共栄学園短期大学
峯尾 武巳 峯尾 武巳

<事務局>

日本生活支援学会
なお、研究協力員は以下の通りである。

<研究協力員>

岡田 史 新潟健康福祉大学
菊池 富久子 前社会福祉法人悠遊
黒川 雅代子 龍谷大学短期大学部
小倉 毅 中国短期大学
重松 義成 佐賀短期大学
森 由香子 日本福祉大学中央福祉専門学校
鎗田 宏 社会福祉法人特別養護老人ホーム「ライゼ清輝苑」施設長
横濱 礼子 弘前福祉短期大学
和田 幸子 大阪城南女子短期大学
小熊 順子 浦和大学

(2)研究の内容

 ア)全国調査の実施及び分析

 全国の特別養護老人ホーム(1,000ヶ所 ※WAM-NETデータより無作為抽出。2008年8月末)を対象とし、介護福祉士の配置の状況及び当該施設における介護福祉士の評価に関する調査を2008年10月に実施した。

 調査票の構成としては、「施設票」(各1部)と「介護職員票」(各6部)とし、「施設票」は、施設長に回答を依頼し、「介護職員票」は、施設に勤務している介護職員の中から、無作為に介護福祉士有資格者3名、介護職員(介護福祉士以外)3名を施設側で抽出してもらい、回答を依頼した。

 分析にあたっては、特に、介護福祉士の配置の多寡により、サービスの内容・質に差があるのか、また介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)について、施設長からみた評価結果や、それぞれの職種による自己評価結果に違いがあるのかについて中心的に行った。

 イ)ヒアリング調査

 介護福祉士の資格の有無による違いを詳細に把握するため、特別養護老人ホームの施設長を対象として、ヒアリング調査(10ヶ所)を行った。

3.研究結果(要旨)

◆調査の概要

 本調査は、全国の特別養護老人ホーム(1,000ヶ所 ※WAM-NETデータより無作為抽出。2008年8月末現在)を対象に、介護福祉士の配置の状況及び当該施設における介護福祉士の評価に関する調査票を郵送配布し、337施設(有効回収率33.7%)から回答が得られたものである。

 調査票の構成としては、「施設票」(各1部)と「介護職員票」(各6部)とし、「施設票」は、施設長に回答を依頼し、「介護職員票」は、施設に勤務している介護職員の中から、無作為に介護福祉士有資格者3名、介護職員(介護福祉士以外)3名を施設側で抽出してもらい、回答を依頼した。

 分析にあたっては、特に、介護福祉士の配置の多寡により、サービスの内容・質に差があるのか、また介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)について、施設長からみた評価結果や、それぞれの職種による自己評価結果に違いがあるのかについて中心的に行った。

◆調査およびヒアリング結果のまとめ

○介護福祉士の比率による施設サービスの質
 介護福祉士の比率が高い施設の方が入所者の平均要介護度が高い傾向にあり、重度化対応加算の取得率も若干高いことから、介護福祉士が配置されていることにより、より重度な入所者の生活を支えることができている可能性がある。また、介護福祉士の比率が高い施設の方が身体拘束廃止未実施減算に該当しない割合が若干高いことや、施設内での看取り希望を原則的に受け入れている割合が高いことなどから、入所者のニーズに即した対応ができている可能性がある。

 さらに、介護福祉士の比率が高い施設ほど、入所者に占める入院率(1年間の入院実人数)が若干低いこと、救急搬送率(入所者に対する1年間の救急搬送延べ人数)が若干低いことなどから、介護福祉士が多く配置されていることにより、入院や救急搬送を回避できている可能性も示唆された。また、介護福祉士が多く配置されている施設の方が、医療的ケアの多い利用者について、介護職員と看護職員の連携が十分になされている傾向がみられ、介護福祉士が看護職員と連携しながら医療的ケアの多い利用者にも対応できていると考えられる。

○施設長からみた介護福祉士への評価
 施設長からみた評価は、介護福祉士の方が介護職員(介護福祉士以外)に比べて業務全般に渡って評価が高く、統計的にも有意な差がみられた。調査を補完する形で実施した施設長へのヒアリング結果からは、介護福祉士に対する「介護過程」「生活支援」「認知症ケア」「記録・報告」「リスクマネジメント」についての評価が高く、課題を明確化して介護計画を立てて実践ができるという点や、予測を立てて行動ができる点、認知症に適切に対応できる点、記録ができる点などが評価されており、この調査結果を裏付けるものと考えられる。

○介護福祉士/介護職員(介護福祉士以外)自身による自己評価
 介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)自身による自己評価をみると、知識、技術に関しては、介護福祉士の方が自己評価が高く、特に知識の面では「介護保険制度」「介護実践の基礎となる人体の構造や機能」「介護の概念や定義、対象、領域」などについての自己評価が高かった。また、技術の面では、「リスクマネジメントの技術」「介護過程展開の技術」「介護計画作成技術」などの自己評価が高かった。

 一方で、介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)自身による業務展開過程に関する自己評価については、全般的に大きな差はみられなかった。この結果の解釈に関して、介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)では、「十分」と捉える基準が異なる可能性が示唆された。このように到達目標が個々により異なる中で、自己評価を一概に比較することは難しいことから、評価の尺度・方法、分析方法等については、今後の検討課題として残された。

◆今後の課題

 今後の課題として、介護職員によるサービスの内容・質の評価方法についての再考の必要性があげられる。今回の調査では、介護職員による業務展開過程に関して、9領域計51項目を設定し、施設長による評価と、介護福祉士及び介護職員(介護福祉士以外)による自己評価を行ったものであるが、「十分である」〜「十分ではない」という尺度で回答してもらったため、特に、介護職員本人の回答については、それぞれの調査対象者が「十分」と捉える基準が異なり、結果の解釈が難しい部分が残された。目標が高い人ほど、自己評価が低くなることも考えられ、自己評価の方法、尺度については、引き続き検討していく必要がある。

 特別養護老人ホームの施設長に対するヒアリング調査結果からは、今回の調査で設定した9領域51項目以外にも、介護福祉士に対して、リーダーとしての職場の雰囲気づくりや多職種協働の推進を期待していること、自己研鑽・向上心を持った取り組みや主体的に仕事に取り組む姿勢などを期待していることが分かった。これらの内容については、今回の評価項目には十分には入れられていないため、今後、これらの内容に関する評価方法・項目等について検討していく必要がある。

 また、今回は、サービスの質の評価指標の1つとして、各施設における看取りへの対応(看取り率)、入院率、救急搬送率などを設定し、介護福祉士が多く配置されている施設ほど、看取りに対応している傾向がみられ、入院率や救急搬送率が低い傾向がみられたが、統計的な有意差は見られなかった。これらの数値については、施設の状況(母体法人、医療機関への併設等)や看護職員の配置状況にも左右されると考えられる。介護福祉士の配置により、どのようなサービス内容・質に違いがでるのかを引き続き検討する必要がある。また、特に施設サービスにおいては、職員が複数人でかかわって利用者へのサービスを提供することから、特定の職員個人のサービスの質を評価することが難しい面があるが、職員個人のサービスの質の評価指標についても検討していくべき事項と考えられる。

 サービスの質の評価には、利用者満足度などの方法も考えられるが、特別養護老人ホームの入所者については、利用者満足度を調査するのが困難な状態の入所者が多いこと、家族についても面会回数が少ないケースも少なからずあること、そもそも入所者・家族にとっては、介護福祉士有資格者がどの職員であるかを認知していない可能性があることなどから、今回は利用者満足度調査を行わなかった。介護福祉士の配置が評価される流れの中で、今後はこれらの利用者満足度の観点からも検討する必要があると考えられる。

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