1.調査結果のまとめ
本調査は、全国の特別養護老人ホーム(1,000ヶ所 ※WAM-NETデータより無作為抽出)を対象とし、介護福祉士の配置の状況及び当該施設における介護福祉士の評価に関する調査を実施したものである。
全国の特別養護老人ホームのうち、1,000施設を対象に調査票を郵送配布し、337施設(有効回収率33.7%)から回答があったものを集計・分析した。
本調査では、主に以下のような観点からの分析を行った。
- 介護福祉士の比率により入所者の状況、加算の状況、看取りへの対応、入院等の状況、施設内の連携状況、教育・研修の状況に違いがあるかどうか
- 施設長からみた介護福祉士・介護職員(介護福祉士以外)の評価に違いがあるかどうか
- 介護福祉士・介護職員(介護福祉士以外)による自己評価に違いがあるかどうか
(1)介護福祉士の比率による入所者の状況
- 介護福祉士の比率が高い施設の方が、平均要介護度が高く、有意な差がみられる。
(2)介護福祉士の比率による加算の状況
- 介護福祉士の比率が高い施設の方が、重度化対応加算の取得率が若干高い傾向がみられる。
- 介護福祉士の比率が高い施設の方が、身体拘束廃止未実施減算に該当しない割合が若干高い傾向がみられる。
(3)介護福祉士の比率による看取りの状況
- 介護福祉士の比率が60%以上の施設では、施設内での看取り希望に対して、「原則的に受け入れる」割合が高く、有意な差がみられる。
- 介護福祉士の比率が60%以上の施設では、1年間の看取り件数が4.4件と若干多い傾向がみられる。
(4)介護福祉士の比率による入院等の状況
- 介護福祉士の比率が高い施設の方が、入所者に対する入院割合(1年間の入院実人数)が若干低い傾向がみられる。
- 介護福祉士の比率が高い施設の方が、救急搬送率(入所者に対する1年間の救急搬送延べ人数)が若干低い傾向がみられる。
(5)介護福祉士の比率による施設内の連携等
- 介護福祉士の比率が高い施設の方が、医療的ケアの多い利用者の状態・ケアについて、看護職員と「十分に連携をしている」割合が高く、有意な差がみられる。
- 介護福祉士の比率が高い施設の方が、苦情への対応方法として、「職員全体に開示し対応を検討している」割合が高い傾向がみられる。
(6)介護福祉士の比率による教育・研修の状況
- 介護福祉士の比率が60%以上の施設では、事業所内研修、併設施設での研修、施設外での研修などの実施・参加割合が若干高い傾向が見られる。
- 介護福祉士の比率が60%以上の施設では、介護福祉士の資格取得支援として、「勉強時間を確保できるよう勤務体制に配慮」している割合が高く、有意な差がみられる。
(7)施設長からみた介護福祉士・その他介護職員の評価
- 施設長からみると、業務全般に渡って、介護福祉士の方が「十分である」との評価が高く、有意な差がみられる。
t検定(対応のあるサンプル) * p<.05 ** p<.01 *** p<.001
調査票上で「人間の尊厳」、「コミュニケーション」、「介護過程」、「レクリエーション」、「生活支援」、「認知症ケア」、「記録・報告」、「リスクマネジメント」、「福祉用具」の9領域を設定した。
各領域の項目において、介護職員として就職して1年以上2年未満の介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)について、「1.十分ではない」〜「4.十分である」の4段階で評価を質問した。
本集計は、「1.十分ではない」=1、「2.あまり十分ではない」=2、「3.まあまあ十分である」=3、「4.十分である」=4と得点化し、平均値を算出したもの。
(8)施設長からみた介護福祉士・その他介護職員の評価〜自由記述より〜
- 施設長が「十分ではない」と思う順に2項目を抽出してもらい、その理由を自由記述してもらったところ、介護職員(介護福祉士以外)については、「理解していないため」「知識が不足しているため」という記述が多い傾向がみられた。
- 介護福祉士に対して「十分ではない」と考えている点について、116件の自由回答があり、そのうち、12件(10.3%)が「理解」「知識」が不足していることに関する記述であった。一方、介護職員(介護福祉士以外)に対しては、「十分ではない」と考えている点について、137件の自由回答があり、そのうち、25件(18.2%)が「理解」「知識」が不足していることに関する記述であり、介護福祉士に比べて割合が高くなっている。
内 容 | 介護福祉士 | 介護職員(介護福祉士以外) |
人間の尊厳 | − | 認知症への理解が不足(1) 自立支援への理解(1)が不足 介護の目的の理解(1)が不足 利用者の尊厳の理解が不足(1) |
コミュニケーション | − | 利用者の思い・背景への理解が不足(1) |
介護過程 | ケアプランの理解が不足(2) | ケアプランの理解が不足(5) |
レクリエーション | レクリエーションの目的の理解が不足(2) | レクリエーションの目的の理解が不足(1) レクリエーションの知識が不足(1) |
終末期ケア | 終末期への理解が不足(1) 終末期の経験・知識が不足(1) |
終末期への知識・理解が不足(1) |
認知症ケア | 認知症への理解が不足(1) 認知症の知識が不足(1) |
認知症への理解が不足(2) 認知症の知識が不足(1) |
記録・報告 | 記録への理解が不足(2) | 記録への理解が不足(2) 援助過程への理解が不足(1) 福祉用具の理解が不足(1) 援助過程の理解が不足(1) 事例検討の知識が不足(1) |
リスクマネジメント | 感染症への理解が不足(2) | なし |
福祉用具 | なし | 福祉用具の種類への理解が不足(1) 種類と使用方法の知識が不足(1) 利用方法の知識が不足(1) |
※施設長が「十分ではない」と思う理由の中から、「理解」や「知識」が不足しているといった記述を抽出してまとめたもの。( )内は回答件数。
(9)介護福祉士・その他介護職員による自己評価1
- 介護福祉士、介護職員(介護福祉士以外)の知識に関する自己評価をみると、いずれの知識についても介護福祉士の方が自己評価が高く、有意な差がみられる。特に、「介護保険制度」、「介護実践の基礎となる人体の構造や機能」、「介護の概念や定義、対象、領域」 などは自己評価の差が開いている。
t検定(独立したサンプル) * p<.05 ** p<.01 *** p<.001
調査票上で知識に関し、各項目「1.かなり不足している」〜「4.十分もっている」の4段階で自己評価を質問した。
本集計は、「1. かなり不足している」=1、「2.少し不足している」=2、「3.少しはもっている」=3、「4.十分もっている」=4と得点化し、平均値を算出したもの。
(10)介護福祉士・その他介護職員による自己評価2
- 介護福祉士、介護職員(介護福祉士以外)の技術に関する自己評価をみると、技術全般について介護福祉士の方が自己評価が高く、有意な差がみられる。特に、「リスクマネジメントの技術」、「介護過程展開の技術」、「介護計画作成技術」などは自己評価の差が開いている。
t検定(独立したサンプル) * p<.05 ** p<.01 *** p<.001
調査票上で技術に関し、各項目「1.かなり不足している」〜「4.十分もっている」の4段階で自己評価を質問した。
本集計は、「1. かなり不足している」=1、「2.少し不足している」=2、「3.少しはもっている」=3、「4.十分もっている」=4と得点化し、平均値を算出したもの。
上記の調査結果から、以下のようにまとめられる。
○介護福祉士の比率による施設サービスの質
介護福祉士の比率が高い施設の方が入所者の平均要介護度が高い傾向にあり、重度化対応加算の取得率も若干高いことから、介護福祉士が配置されていることにより、より重度な入所者の生活を支えることができている可能性がある。また、介護福祉士の比率が高い施設の方が身体拘束廃止未実施減算に該当しない割合が若干高いことや、施設内での看取り希望を原則的に受け入れている割合が高いことなどから、入所者のニーズに即した対応ができている可能性がある。
さらに、介護福祉士の比率が高い施設ほど、入所者に占める入院率(1年間の入院実人数)が若干低いこと、救急搬送率(入所者に対する1年間の救急搬送延べ人数)が若干低いことなどから、介護福祉士が多く配置されていることにより、入院や救急搬送を回避できている可能性も示唆された。また、介護福祉士が多く配置されている施設の方が、医療的ケアの多い利用者について、介護職員と看護職員の連携が十分になされている傾向がみられ、介護福祉士が看護職員と連携しながら医療的ケアの多い利用者にも対応できていると考えられる。
○施設長からみた介護福祉士への評価
施設長からみた評価は、介護福祉士の方が介護職員(介護福祉士以外)に比べて業務全般に渡って評価が高く、統計的にも有意な差がみられた。調査を補完する形で実施した施設長へのヒアリング結果からは、介護福祉士に対する「介護過程」「生活支援」「認知症ケア」「記録・報告」「リスクマネジメント」についての評価が高く、課題を明確化して介護計画を立てて実践ができるという点や、予測を立てて行動ができる点、認知症に適切に対応できる点、記録ができる点などが評価されており、この調査結果を裏付けるものと考えられる。
○介護福祉士/介護職員(介護福祉士以外)自身による自己評価
介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)自身による自己評価をみると、知識、技術に関しては、介護福祉士の方が自己評価が高く、特に知識の面では「介護保険制度」「介護実践の基礎となる人体の構造や機能」「介護の概念や定義、対象、領域」などについての自己評価が高かった。また、技術の面では、「リスクマネジメントの技術」「介護過程展開の技術」「介護計画作成技術」などの自己評価が高かった。
一方で、介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)自身による業務展開過程に関する自己評価については、全般的に大きな差はみられなかった。この結果の解釈に関して、介護福祉士と介護職員(介護福祉士以外)では、「十分」と捉える基準が異なる可能性が示唆された。このように到達目標が個々により異なる中で、自己評価を一概に比較することは難しいことから、評価の尺度・方法、分析方法等については、今後の検討課題として残された。